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「家賃保証」は危険なトリック〜サブリース訴訟は起こるべくして起きた

公開日: 2017年07月15日

サブリースの儲けの仕組みと約束された破綻

今年2月、家賃収入は10年変わらない契約でアパートを建てたのに、6年後に減額されたとして、愛知県の男性があるサブリース大手業者を訴え、同様のトラブルで全国100人以上のオーナーが一斉提訴を検討していると報道され業界に激震が走った、いわゆるサブリース訴訟問題。

なぜ、このようなサブリーストラブルが後を絶たないのか?

実は、そもそも日本でのサブリースという仕組み自体が、長期存続不能な設計になっているからなのです。

家賃保証(サブリース)というシステムができたのは1980年代半ばですが、その数が爆発的に増えたのはバブル以降の1990〜2000年くらいまでの約10年間。この当時はバブル崩壊によって建築費や金利が下がり新築コストが大幅に下がったため、大量にアパマンが供給された時代でした。

一方で、初めてアパマン経営を始める大家さんが多く「誰でもできる賃貸経営のシステム」として、家賃保証が大量に売れた時代だったのです。アパマンを売る業者サイドも、家賃保証をしてもらえば誰でも片手間で不労所得が得られる!とうたいつつ営業するのが常識でした。

当時は、建築コストはもちろん、いかに高い保証率の家賃保証ができるか(または高保証率の保証会社をつけられるか)が受注を左右する時代でした。

募集家賃の90%保証はあたりまえ、そこからどれだけ保証率を高められるかが受注の鍵をにぎっていました。

たとえば、募集家賃が10万円で保証率が90%であれば、1万円を保証料として業者が受け取り、残りの9万円を大家さんが受け取るということです。

この保証率が92%になると、8千円の保証料となり残りの9万2,000円を大家さんは受け取ることになります。しかし、家賃の保証率が92%以上になると、空室率の関係で業者はほとんど儲けはでません。しかし、その分、敷金、礼金、更新料等はすべてサブリース業者の収入になります。

つまりサブリース業者は家賃保証だけではなく、一時金収入も含めたトータルとして利益を出す構造になっているわけです。

サブリース業者儲けのトリック

90年代はアパマンバブルでしたので、サブリース業界への参入も多く、サブリース業者は常に競争させられる存在でした。当然、高い率で保証してしまうと利益が出ません。そこで、彼らは2つのトリックを仕込みます。

1つ目のトリックは、相場家賃より低い募集家賃の設定です。

たとえば、相場家賃より低い募集家賃を大家さんに提示します(相場が10万円のところ9万5,000円など)。

当時は、家賃相場を検索するポータルサイトも充実していませんでしたから、素人の大家さんには家賃相場なんてよくわかりません。一方、家賃保証率の相場は90%が一般的でしたから92%で保証するといえば、一瞬魅力的に見えます。しかし相場より低い家賃設定での募集ですから、実際の家賃相場からすれば90%程度の保証になるわけです。

2つ目のトリックは、実際の募集は相場家賃かそれ以上で募集し、設定家賃との差を稼ぐことです。

先ほどのように9万5,000円の設定家賃だとしても、大家さんとはこの家賃の92%を保証しますよ、と契約しているわけであって、実際の入居募集ではこの設定家賃よりも高く貸すのが常識です。つまり家賃保証の前提になる設定家賃より10%くらい高い家賃で募集し、上積み利益を得るわけです。具体的には次のようになります。

設定家賃9万5,000円 ×(1 − 92%保証)=業者利益7,600円・・・A
募集家賃10万5,000円 − 設定家賃9万5,000円=募集差利益1万円・・・B
A+B=合計利益1万7,600円/戸・月

当時は人口も右肩上がりでしたし、竣工後即満室というアパマンが多かった時代なので、高保証率で契約したサブリース業者も、実際には契約家賃と募集家賃との差益で十分儲けることがでたわけです。さらに、敷金、礼金、更新料等はすべてサブリース業者のものになりますから、これらも重要な収入源になっていました。

しかし、2000年代に入り、次第にサブリース業者の隆盛は衰えていきます。というのも、供給過剰、人口増加の鈍化により空室率は拡大。それにともなって家賃相場が下がり始めてきたためです。

さらに収入の減少、ITバブルの崩壊にともなうリストラで家賃滞納も増加するようになってきます。当然、敷金、礼金もかつてのように取れなくなり、サブリースの旨味がなくなってしまったのです。

そして逃げ出し始めたメーカーのサブリース

最悪なのは、アパートメーカーのサブリースです。

ちなみに、アパートメーカーの建物の質は決して悪くありません。むしろいい方です。膨大な設備投資をして研究開発をしていますから当然です。

ただ、一方で膨大な広告宣伝費、人件費等の一般管理費がかかりますから、建築コストは一般の工務店に比べて3割ほど高くなります。粗利は3割が当たり前。もともと、ハウスメーカーはこれだけ利益を出さないと経営できない体質なのです。

しかし、さすがに一般の工務店に比べ建築コストが3割も高ければ採算が合いません。通常、普通に建てて貸せば10%の表面利回りが出る地域でも、アパートメーカーの企画では5〜7%しか回らないというお粗末な企画を私は過去に数多く目にしてきました。

この利回りがいかに低いことか! たとえば、表面利回りが6%だとフルローンで新築した場合、実質利回りは1%未満か限りなく0%に近くなります。仮に事業費1億だとすると年100万円、月8万3,000円のキャッシュフロー。1戸空室なら手残り無し。金利が1%上がっても手残り無し。そのダブルだと確実にマイナス。という非常にお粗末なレベルなのです。

銀行は大家さんのためでなくアパートメーカーのために融資をする

このような、表面利回りが6%しか回らないリスキーな企画に、融資するバカな銀行はいません。そこで、家賃保証が登場するわけです。大手のアパートメーカーが家賃保証を行うとなれば、銀行は家賃保証という担保を得ることができるため、融資OKとなるわけです。

このスキームは明らかにおかしいでしょう? なぜなら、銀行は大家さんが6%の利回りしか得られない事業には融資しないといっているのに、家賃が保証されるから融資をするというのは、大家さんのために融資をするのではなく、アパートメーカーのために融資をしていることに他ならないからです。

高い建築費を高い保証家賃で煙に巻く

このような異常な事業形態が、バブル以降、特に都市郊外で爆発的に増えました。

ハウスメーカーは自らの高コスト体質により、どうしても高くなってしまう建築費を煙に巻く必要があります。そこで、利回りを良く見せるため相場より高い家賃設定をして、高い保証率でサブリース契約を行っていきました。

当時の新築物件は、礼金、敷金、更新料などが常識であり一時的な収入も多く、ある程度の空室損はこの利益収入で薄めることができました。しかし、環境は激変。深刻化する空室問題に対応するため、敷金0、礼金0、更新料0、というような物件がどんどん増えています。加えて、不動産会社から要求される広告料も1カ月から2カ月へと増えてきています。

このような状況で契約時の保証条件を維持し続けると、サブリース業者はどんどん赤字になってしまうのです。

恐らく10年前の家賃設定を変えず今も90%の保証率でサブリースをして黒字が出ているサブリース業者はいないのではないでしょうか。民間の賃貸住宅の空室率は既に25%以上といわれていますから、相当苦しいということは容易に想像できます。

どう手仕舞するかをサブリース業者は真剣に考えている

このように、相場より高い設定家賃、高保証率でサブリースをしていれば、数年で保証がきつくなってしまうのは当然です。しかも、そもそも地方で、しかもアパートが供給過剰なところに、さらに近隣営業をかけ、新築供給をし、自らの首を絞めるようなことをしているのですから、これが行き詰まらないわけがないのです。

30年保証などをうたうサブリース業者が、当初の保証家賃を最後まで維持し続けることは1000%あり得ないと、断言してもいいくらいです。

サブリース契約書には、必ず2年毎に家賃改定ができる旨をうたっています。したがって、サブリース契約をしている大家さんのもとには、遅かれ早かれ、保証家賃の値下げ交渉に営業マンが訪れることになるのです。

ではその時に、具体的にどういう交渉がされるのか?
その交渉に対してどう切り返せばいいのでしょうか?

具体的な対策方法については、次回書きたいと思います。