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コロナ禍でも避けるべき家賃減額という選択

公開日: 2020年06月01日

滞納が発生する前にセーフティーネット

最近はコロナ禍による自粛で、店舗の借主様や入居者様から「家賃の支払いを猶予してくれませんか」あるいは「家賃を値下げしてくれませんか」といった要望が出ているケースなどが増えていると思います。

世の中の雰囲気も「大家だけが得しているのは不公平だ」という声が高まっているように感じます。

しかし、このような家賃の減額や支払いの引き伸ばし要求には、安易に応じてはいけません。

店舗の借主様や入居者様に同情して、一時の感情で値引きなどを行えば、最終的に大家さんに負の要素が跳ね返ってきます。

値引きしてはいけない理由

安易に値引きをしてはいけない最大の理由は、大抵の大家さんが「金融機関から借り入れをして事業を営んでいる」からです。

もちろん、余裕がある大家さんで「借り入れが全然なく入居者様と長年良好な関係」を結んでいれば「家賃を一定期間値引く」という選択もありかも知れません。

実際、私もそのようなケースがありました。

しかし、ローンを組んで賃貸経営を行っている場合は話が別です。

仮に3ヵ月家賃が入ってこなければ、金融機関への返済が厳しくなり、大家さん側もローンの支払いを猶予してもらう必要が生じます。

例えば、1億円(表面利回り約10%)の物件を一割自己資金を入れて、9000万円のローンを組んで購入したとします。
おおよそ、実質のキャッシュフローは300万円くらいになると思います。

1億円を投資して、収入は月に換算すると約25万円ですから、飲食店より利益率は低いといっても過言ではありません。
そのため慎重に考える必要があるわけです。

しかも、なかにはコロナ禍に便乗して値引きを要求する人なども出てきます。

確かに、今回の自粛要請で飲食店は厳しい立場に立たされていると思います。

しかし、大家さん側から見れば、今回の苦しい時に値引きなどに応じた場合「景気が良くなったら、そのタイミングで家賃を上乗せしてくれますか」という話にもなってきます。

値滞納家賃の回収の難しさ

さらに、滞納家賃は「回収が難しい」という問題もあります。

基本的に、店舗の借主様も住宅の入居者様も借地借家法という法律で守られています。

この法律は借主サイドの権利が極めて強く、滞納しても支払う意思があれば、裁判で立ち退きをしてもらうことさえ難しいのが現実です。

例えば、借主サイドに悪意がなく「家賃を全額払いたいけど難しい…半分なら支払える」みたいな状況では、立ち退きや滞納分の回収が困難になります。

このような負のスパイラルに陥らないための救済策として、行政から色々なセーフティーネットが用意されており、家賃を支援する制度などについても様々な方針が発表されています。

実際に、国は新型コロナウイルス対策で、家賃の支援に約5兆円の予算を補正予算として付ける意向を持っているのです。

そのため、住宅の入居者様だけではなく、店舗を営む事業者さんに対しても支援が厚くなるのは間違いありません。

この辺りも調べ、まずは「行政の支援策を活用してみてください」と借主サイドにアドバイスをするのが賢い選択です。

また、家賃収入が減った大家さん側にも、税金の支払い猶予の措置などが予定されているので、こちらも検討しましょう。

減免するならしっかりプランを決めてから

最後に、どうしても借主サイドからの家賃の減免を検討しなければいけない時には、コロナ禍の収束後に、①どのような再建プランで家賃の減額分を戻してくれるのか②延納分はいつ返してくれるのか③延滞金の考え方はどうなるのか④この機会に変動賃料に切り替えるのかなど、しっかりしたプランを決めておくようにします。

そして、必ず口頭ではなく文書で内容(支払い猶予期間・支払い返済の予定月・月々の返済金額など)を明記し、先方から承諾のサインをもらうようにしましょう。

仮に、減免期間が過ぎても支払いが困難な場合は退去することにも同意して頂く必要があります。

もしも裁判になると、最悪の場合は大家さんが1年分くらいの費用負担を被ってしまう可能性があるからです。